仕込編

作るビールの見極め

ビールの種類
ビールは大きく分けてラガーとエールに分れます。ラガーと聞くとK社のラガーや熱処理した物を思い浮べる方も多いでしょう。しかしラガーとは本来「熟成」という意味で、ビール醸造では下面発酵で醸造したビールを指します。この定義からすると日本のビールはほとんどがラガービールということになります。対して上面発酵で造ったビールはエールと呼びます。下面発酵、上面発酵は使うイーストで決ります。以下ラガーとエールの違いを記します。

ラガー

エール

発酵温度

9°〜15°C

15°〜24°

発酵期間

14〜20日

約1週間

味の傾向

すっきりした喉ごしで、淡色ビールに多い。

フルーティな香りで味も重いものが多い。

上記のようにラガーは発酵温度が低く、発酵期間もエールと比べると倍かかります。また、発酵適温の範囲が狭く急激な温度変化で発酵をやめてしまうこともあります。言ってみればラガーイーストは非常に貧弱なイーストなのです。とはいえ扱いに注意すれば決して難しい事ではありません。両者の発酵適温を利用して夏場はエール、冬場はラガーを醸造すれば1年中自ビールが楽しめますので、この際両方のビールが出来るスキルを身につけましょう。

発酵容器を置く場所の温度
作るビールをラガーにするかエールにするかは発酵容器を置く場所の温度によっても変ってきます。発酵容器を置けそうなところで温度変化の少ない所の温度を片っ端から調べて、上記の発酵温度に見合った所を見つけます。押入や納屋などはたいてい日当りが悪く、温度変化の少ない場所と言えるでしょう。また毛布をかぶせたり水に浸けたりすることで多少の温度差はカバー出来ます。クーラーボックスを利用すると真夏でもラガーを作ることは可能になりますし、チェスト式のフリーザーを改造して使っている方もいらっしゃいます。

スタイルを決める
ラガーかエールかを決めたら、次はビールのスタイルを決めましょう。イーストの選択が料理で言うと鍋にしようか焼肉にしようかといった調理方法に対し、スタイルはいわば醤油味か塩味かといった味付けに関するものでしょうか。ポーター、スタウト、ピルスナーなどモルト缶に品名として挙げられているのがそれに当ります。味の傾向はそれぞれのモルト缶の説明を参照してください。ちなみに日本のビールはピルスナータイプのラガーを手本に始められたそうです。

材料の調達

モルト缶

目標とするビールが決ったらまずはモルト缶を買います。ここで言うモルト缶とはモルトエキスにホップのエキスが入っている物を指します。銘柄としては「ビールの素」「ブラックロック」「ブルーマート」等でこれをお湯で溶かしてイーストを入れるだけで仕込み完了となる物です。東急ハンズがお近くにあるなら売場で買うのが早くて便利です。店頭にない物も扱いがあればすぐに取寄せてくれます。値段もこの商品に関してはネット通販とあまり変りはありません。逆に送料分安かったりします。
近くにハンズがない場合はネット通販を利用することになります。扱っているサイトはシービーシー株式会社、ホームブルーイングサービス等ネットを調べるとたくさん見つかります。その中で送料と送金方法を考慮してお値打ちな所を探してください。
今回はブルーマートのデニッシュピルスナーを使用して比較的日本のビールに近い物を目指します。


イースト

モルト缶と同時にラガーかエールのドライイーストも一緒に購入します。ホップエキス入のモルト缶にはイーストが添付されているのですが質、量とも不十分なものが多く、またラガーと銘打ってあるモルト缶の添付イーストもほとんどがエールイーストなのです。別売ドライイーストはラガーで470円、エールで320円程度しますが、良質な物が多く2,3度使い回しが出来るのでそれほどコスト高でもありません。ただ最初の内は殺菌のスキルも十分ではないので毎回新品を使った方がいいでしょう。
今の季節が冬で、目指すビールがピルスナーですので今回はDCLドライラガーイーストを使います。

グローブバッグを作ろう

ビール作りも回を重ねるとイーストの培養が出来ない物かと思ってきます。そんなときは無菌空間を作り出すグローブバッグを使ってみましょう。

砂糖
国内ではアルコール度数1%以上のお酒は造ってはならないはずなのに平然とビールキットが売られているのは何故でしょう?それはほとんどのキットがノンアルコールビールを作るためのキットとして売られているからです。しかしキットの説明書にはアルコールを5%程度に仕上げるために加える砂糖の量も明記されています。
この矛盾を私はよく宮沢りえのヘアヌードにたとえます。法律では禁止されていても時代は常に変っていて、ヘアヌードも芸術といってしまえば認められたように、大義名分さえ通れば多少の事はお役所は見逃してくれるということです。ただ飽くまで秘め事なので作ったビールを仲間内で楽しむのはいいのですが売ったりしてはいけません。
お話はそれましたが、それなりに酔えるビールを作るためには加糖する必要があるわけです。糖分はイーストがアルコールと炭酸ガスを発生するために必要な養分なのです。砂糖は上白糖、三温糖など何でもよいのですが今回はすっきりした味わいと扱いやすさからグラニュー糖を使用します。
(上記の記述は日本におけるホームブルーの実体を述べただけで、当サイトでは必ずしも砂糖を加えアルコール度数1%以上のビールを醸造する事を推奨しているわけではありません。)

材料は以上ですがこの先色々なレシピを楽しむためには、ホップ、モルトエキス、米、コーンスターチ等を加えていきます。

実際の仕込

上図は仕込の手順を時間的に並べたものです。今回は仕込量を18リットルにしますので仕込水を3回に分けて全量殺菌します。モルト缶添付の説明書にはモルト缶を溶かす分だけ煮沸し、あとは水道水を直接入れるとあります。比較的お手軽ですが全量殺菌の方が出来上がりはよくなります。とはいえ全量殺菌しなくても充分美味しいビールは出来ますので、お鍋の小さい場合や面倒な方はこの方法でもかまいません。全量殺菌の仕込は薬剤殺菌と煮沸を同時に行いますので、プリントアウトして台所に貼っておくといいでしょう。消毒剤による殺菌の時間以外はお使いのコンロの火力や沸かすお湯の量によって変ってきますので、adobe Illustrator等をお持ちの方はダウンロードして作り直してください。常に行程を見極めることで、失敗無く効率よく作業できます。

timetable_sikomi.pdf

菌の特性
ここでビールイーストや雑菌についてふれておきます。ビールづくりは雑菌との戦いです。仕込時はアルコールスプレー等で常に殺菌を心がけてください。
しかしそれで総ての雑菌を殺菌できているか気になるところです。しかし菌類とはその容器内に早期に良質の菌が大半を占めれば他の雑菌が入り込んだとしてもその菌は駆逐さてしまうという特性があります。漬物やヨーグルトが保存性が高いのはこの特性を利用した物です。
ですから案外適当にビールを仕込んだとしてもそれなりに出来てしまうのも事実で、余り神経質になる必要はありませんが、気を使えばやはり美味しい物は出来ます。

冷却用氷
仕込む前日に殺菌した2リットルくらいの容器に煮沸した水を入れ、冷凍庫で凍らせます。これはイーストを入れる際の温度調整に使います。雑菌は熱には弱いのですが、低温にはきわめて強く、冷凍庫で凍らせたからと言って死滅するわけではなく、適温になればまた活動してきます。ですから冷却用の氷も煮沸殺菌したものから作る必要があるのです。

発酵容器の殺菌
お使いの発酵容器の半量以上キッチンハイターなどの塩素系漂白剤で作った溶液を入れ、30分殺菌します。これは一般的な漂白剤の使用例ですので使用する殺菌剤の説明書を良く読み、濃度や殺菌時間などは厳守してください。とはいえ多くの漂白剤はステンレスを含む金属には使用しないようにと書いてあります。ただ経験上、濃度を守って30分以内ならさほど問題はないようです。
発酵容器の殺菌は上部と下部に分けることによって殺菌剤の節約と隅々まで殺菌出来ます。
殺菌が完了したら殺菌剤を別の容器に移してお玉、温度計、発酵容器の蓋などの小物を殺菌します。
一方、発酵容器は水で2回ぐらい濯ぎ、シャワーのお湯で1回濯いで完了です。

仕込水の煮沸殺菌
仕込水はモルト缶、冷却用氷、温度調整用温水を加えて最終的に18リットルにしなければなりませんので煮沸するお湯は16リットル程度に納めなければなりません。ですから6・6・4リットルの3回に分けます。最後の4リットルにはモルト缶と砂糖が入りますので少な目にするわけです。
煮沸殺菌したらそのままバスタブに水をはって浸けておきます。荒熱をとった後発酵容器に注ぎ替えるのですが、この時あえて勢いよく注ぎ替えてください。ビールイーストは初期発酵のときある程度の酸素を必要としますのでこの行程がエアレーション(酸素入れ)になるわけです。エアレーションをするのはこの時だけでこのさき移し替えるといった行程では酸素を巻込まないように静かに注ぎ入れる必要があります。また注ぎ替える時は冷却用に使ったバスタブの水が発酵容器に入り込まないように煮沸鍋の底をタオルなどでふき取るよう、気を使ってください。

モルト缶の準備
モルト缶はラベルをはがし洗ってお湯に浸けておきます。これは中のモルトエキストラクトを取出しやすくするためです。

砂糖、モルト缶の投入
3つめのバッチのお湯が沸いたらモルト缶の説明書にある量のグラニュー糖を加えます。すかさず殺菌したお玉で混ぜて溶かします。このあとモルト缶を投入するのですが、モルト缶の説明書によってはモルト缶投入後、30分程度加熱すると記された物もあります。これはより透明度を高めるための作業なのですが、今回の仕込方法ではモルト缶投入後絶対に煮込んではいけません。ホップの香りは煮沸と共に飛んでいきますので、長時間煮込む場合は最後にアロマ用ホップを追加して下さい。
火をとめたら前回のバッチと同様、バスタブで荒熱をとった後発酵容器に移し替えます。

最終仕込量と温度の調整
前回のバッチを発酵容器に移し替えたあと、さらに2リットルほどお湯を沸かします。発酵容器内のウォート(若ビール)の温度を殺菌した温度計で測り、18〜24℃(ラガーもエールも同様)になるまで氷をいれます。温度が下がりすぎたらお湯を入れて調整し、最終的に18リットルにします。


ウォートチラー 
当サイトでは最小限の設備での仕込を目指していますが、慣れてきたら品質と作業効率を上げるためにいくつか専用の道具を導入してみましょう。
ウォートチラーとは煮込が完了したウォートを冷すための道具です。煮込完了後できるだけ早くイースト投入の温度に近づけることにより、雑菌の繁殖を押え、より高品質なビールになります。詳しくは上級編へ。

イーストの投入
ウォートが適温の18〜24℃になったら蓋をして温度が一定の場所に運び、ゆれがおさまったら大きい方の口からイーストを投入します。発酵容器全体にゆきわたるように静かに入れてください。

外気との遮断
イースト投入後小さい方の蓋は完全に締め、大きい方の蓋にはラップをかぶせて輪ゴムで軽く固定します。これからイーストは盛んに発酵し炭酸ガスとアルコールを発生します。完全に密閉すると発酵容器がふくれあがりますのでどこかでガスを逃さなければなりません。自ビールグッズショップで売っているエアロックというのもポコポコして楽しいのですが、容器を移動するとき内圧の変化でエアロック内の水が逆流したりするので気を付けなければなりません。発酵容器はあまり移動しない方がいいのですが、移動するときはキャップを固く締め移動後、再びガスを逃せる状態にします。

ドライホップについて

ドライホップとはホップのペレットやリーフをだし袋に入れ加熱しないで成分を抽出する方法なのですが、ホップを入れただし袋(ホップバッグ)は必ず1次発酵時に発酵容器に投入し、樽詰の時に取除いてください。樽詰時にそのまま樽内に入れる方がいらっしゃいますが、長時間圧力がかかった状態で抽出すると余分なえぐみがでてしまいます。また樽内にホップバッグなどの固形物があるとバルブの流量に影響してビールが泡だらけになります。

試飲
一通り仕込が完了したら消毒したお玉で少量取り、味見をします。この時は随分甘く感じるはずです。

以上で仕込は終りです。お疲れさまでした。

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